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2024.11.29 2024.12.19

多文化共生の街ロンドンに暮らして

はじめまして。iU客員教授の宮田華子です。

イギリス・ロンドン在住です。普段は著述業(ジャーナリスト/エッセイスト)を生業(なりわい)にしています。

地球の反対側に暮らしつつも、日本にいる学生さんと直接話をしたり、学んだりが出来る時代になりました。オンラインやバーチャルが「リアルを超える」とはまだ思えていません。でも、バーチャルで研究室を持ったり、動画で講義をしながら、「伝わる範囲」がグンと広がったことは実感しています。

イギリスから日本を見て思うこと、または日本目線からイギリスを見て思うこと、その両方について学生さんと一緒に考えていくことができたら、と思っています。

そんなワタクシです。どうぞよろしくお願いいたします。

在英20年。毎回聞かれる質問

20年前にロンドンに来ました。

もともとは1年間の留学の予定でした。しかし、1年が終わったとき「う~ん、もうちょっとロンドンにいたい…かな?」と思い、すぐ帰国する気になれませんでした。

そこで就職先を探し、働き始め、ズルズルと20年。生まれたばかりの子どもが大学生になってしまうぐらいの期間ロンドンに住んでいると思うととても長いのですが、「日本に帰らない」と決めていた(&決めている)わけでもありません。特に大きな決意をしたわけでもなく、ずるずるふわふわロンドンにとどまっているのです。ずっと「旅の途中」のような気もしています。

日本からロンドンに来る知人友人、そして年に1度、一時帰国するたびに毎回同じ事を聞かれます。

  1. 「イギリスってご飯マズいでしょ?」
  2. 「海外暮らしは不便でしょ?」
  3. 「日本のように安心安全な国、ないでしょ?」
  4. 「なぜ日本に帰ってこないの?」

1から4までの毎回答えは同じです。

  1. マズくないです。美味しい物、たくさんあります。

  2. まあそうですね。日本語通じないですし、「外国人」として生きているので不便なこともたくさんあります。

  3. 危険を感じたことはありません。スリには注意が必要ですが、イギリスは銃がないのでそういう意味での「危険」を感じたことはありません。

  4. の答えは…簡単にできません。それは、答えが1つだけではないからです。

私は英国永住権を取得済ですが、市民権は取得していないのでイギリス人ではありません。国籍は日本です。

日本のことも大好きです。年に1度の帰国を心待ちにし、毎回満喫しています。日本語が通じる快適さと、カスタマーサービスがある安心感。「ありがたい」という気持ちでいっぱいになります。

毎回帰国の度にそう思うのに、それでも、毎回ロンドンに戻ってくる。

一時帰国を終えてロンドン行きのフライトに搭乗する時に、いつもその事を思います。不便なあれこれ、言語の壁をも乗り越えてまでロンドンに住み続けている自分。実はこの20年で、「ロンドンに戻る理由」は少しずつ増えているとも感じています。 数ある「ロンドンに住み続ける理由」の中で、最初に1つあげるとしたら何だろうか? そう考えてすぐに頭に浮かんだのは「ロンドンが私の想像以上に本気のコスモポリタンだった」ということでした。

「想像とまったく異なった街」…ロンドン

イギリスに来る前、「イギリス」「ロンドン」に対するイメージがありました。

「紅茶の国」とか「ジェントルマンの国」とか、「天気が悪い」「大英帝国」等々。イギリスに行けば、出会う人のほとんどはイギリス人で、食べるものもイギリス料理で、それなりにイギリスの歴史と文化と伝統の中で培われたモノ・コトに囲まれて生きていくことになるのかなあと。

「紅茶の国」と「天気が悪い」は真実でした。でも他の点について、ほとんどのことは想像とは異なっていました。例えば、「ジェントルマンの国」。これは時代遅れの情報でした。イギリスは「男女」で物事を分けず、「ダイバーシティ」と「ジェンダー平等」を進める意欲を感じる国として私の目には映っています。

イギリスの歴史と文化はそこら中に溢れています。でも「大英帝国」なんて言葉、誰も言わない。日本人以外からは誰からも聞かない。

ロンドンの実態は、「イギリス人、どこにいるの?」と思うぐらい、ありとあらゆる国の出身者が暮らす、多文化共生の街でした。

ここまで読んで「東京や大阪も同じだよ」と思われるかもしれません。現在日本にもたくさん外国人が暮らしていますよね。円安の影響もあり、外国人を見かける機会は各段に増えているでしょう。

でも、もう少し…違うのです。「生活者」として「市民」として、多文化共生社会が風景の中にあるのです。

具体的に私の日々の生活を紹介してみます。

馴染みの八百屋さんはインド系ファミリーの家族経営。
魚屋さんはアフガニスタン出身。
肉屋さんはイギリス人店主のお店と、トルコ系店主のお店の両方をひいきにしています。
チーズやソーセージはポーランド食材店が安くて美味しい。
スパイスやハーブはクルド人店主のお店で。

和食用の食材は、中国人経営のスーパーでほとんど調達できています。

年中行っている魚屋さん。お刺身もここで調達。

我が家に来てくれるプラマー(ガス&水道関係エンジニア)はイラン出身のイギリス人、
ビルダー(大工さん)はポーランド人。

会計士はマレーシア系イギリス人。

現在住んでいる家の右隣りにはスリランカ系イギリス人のファミリーが暮らし、
左隣りにはイギリス人とスペイン人のレズビアンカップルと、2歳の女の子(イギリスとスペインの2重国籍)が暮らしています。

ポーランド食材店と中華スーパーは出身国の特性を活かしてビジネスをしているのですが、インド系八百屋さんやアフガニスタン人魚屋さんは、イギリスによくある、普通の八百屋さん、魚屋さんです。

青空市場が立つ街に住んでいます。大根等の和食に欠かせない野菜も手に入るのでとても便利。

自分のルーツを強く意識している人もいれば、そうでない人もいる。多様なルーツを持つ人たちが、「ロンドン人」として馴染んで生きている。そんな街なので、私自身も「特別な存在感」ではなく、「ごく普通の市民」として生きることができています。

多文化共生&多様性を実感

イギリスにはイギリスなりの社会の成り立ちとルールがもちろん存在します。それらを理解した上で、マナーを守ることは大切です。しかしそれ以外の部分について、多文化共生の街ロンドンは外国人の私に「こうしろああしろ」言わず、ほっておいてくれるのです。

「イギリスはこうだから」とイギリス式の「お作法」を押し付けることもなく、「イギリスのここが良いでしょ?」と「イギリスすごい」トークをされることもなく、きわめて効率的にふるまうのみ。「いわゆるイギリス人」になることを私に求めず、でも無視するわけでもない。でも必要なときはあっさり手を差し伸べてもくれる。

すっぽり包みながらも適当にそっとしておいてくれる。

この「ちょうどよくほっておかれている」環境にいることが、大した決意もないのに20年もの間、この街に住み続けている理由の1つだと思っています。

ICTを武器に「世界を覗き見」しよう

上記は私の個人的な体験ですが、イギリスに来るまでは「こんな風に国・街がなりたっている」と想像していなかったことでした。

日本から見る他国と、他国から見る日本は異なります。日本のルールは世界のルールではなく、反対もしかり、です。

インバウンドでたくさん来ている外国人に対し、「ありえない」と思うことは多いでしょう。また、海外に行ってトラブルに遭い「信じられない」と思う機会もあるはずです。

自分の固定観念や「こうしたい」「こうあるべき」との間に齟齬が起こった時、憤りを感じますよね。私もそうです。長くロンドンに住んでおり、基本は楽しく生活しています。でも、スムーズにいかないことは本当にたくさんあります。私の常識では考えられないことが起こります。「やられたっ!」と思うことも日々起こり続けています。

我が家は築130年?ぐらいの家ですが、普通の古さです。とは言え古いので、年中修理や工事が必要です。イギリス暮らしは「古民家」との格闘。こちらは電気関係の修理中。

そこをどう超えるのか? そのカギは「自分の常識は、誰かの常識ではない」「日本の普通は、他の国の普通ではない」という事実を理解することにつきると思うのです。

私がロンドンでの生活で「こんなのありえない!」と思う事があるのと同じように、私を見て、イギリスに暮らす人たちが「ありえない」と思うこともあるはずです。

…な~んて、分かった風に言っている私ですが、でも私が知っていることは、イギリスから見た日本と日本から見たイギリスだけ。他の国のことは深く知る由もありません。でも、どの国も、地域も「きっと、いろいろ違う」ことは理解しています。

SNSやICTの発展により、現代は行かなくても、住まなくても「覗き見」できる術があります。それは素晴らしいことです。

でも「覗き見」は「覗き見」でしかありません。「覗き見」したことを固定観念にしてしまうと、新たな情報や「正解」を見る眼差しを阻害してしまうかもしれません。テクノロジーは大いに利用し、情報としてインプットする。でもそこにとどまらず、次の情報につなげたり、次の体験につなげる礎にする。そうすることで見える世界は広がり、視線・視野のしなやかさを手に入れられると思うのです。

その「覗き見」をお手伝いし、次の好奇心につなげること― それが長く海外に暮らし、またiUで客員をしている私が出来ることだと思っています。

一緒に「覗き見」しながら、「今見えるもの」と「ここでないどこか」について考える。そんなことを若い世代の人たちとしていけたら嬉しいです。

この記事の執筆者
宮田華子

ロンドン在住ジャーナリスト&エッセイスト/iU情報経営イノベーション専門職大学・客員教授 在英22年。ロンドンで製作会社に勤務後、2011年からフリーの著述業に。イギリス文化や社会、に加え、一筋縄ではいかないイギリス生活についても様々な媒体で綴っている。人生の師匠は「メアリー・ポピンズ」。

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